上川純
一
![]() |
Debian Project の作成するディストリビューション Debian GNU/Linux はフリーソフトウェアから構成されています。 Debian Project においての「フリー」 の定義は DFSG というガイドラインで定められています。 それでは、 それが実際にど ういう使い方をされているのかを紹介します。
フリーソフトウェアにもいくつかの考え方がありえます。 どれが正しいというわけではないので、 一つに統一することはできな いでしょう。 具体的には次の三種類くらいを考えればよいでしょう。
複雑な例を挙げると、 昔の LATEX関連のライセンス LPPL 1.0 では、 変更したものについてはファイル名を変更すること を義務としていました。 また、 現在でも gnuplot ではオリジナルのソースコードの配布を義務とし、 オリジナルのソースコー ドとパッチという形での配布のみ認めています。
もともとの開発者と開発に携わろうとしている人たちにとっては大きな違いがありますが、 エンドユーザにとってはフリーソ フトウェアとして、 利用できることに関してはあまり大きな違いはありません。
Debian はそのどちらの立場でもなく、 ディストリビュータとして関わることになります。 許諾された範囲で次のことができ ればよいことになります:
これらを現実的に阻害しないようなライセンスの条件を取りまとめたのが DFSG です。
DFSG 全文を図 1に掲載します。
Debian GNU/Linux で、 ライセンス管理に関連するプロセスや仕組みを整理しましょう。
Debian ディストリビューションにパッケージを追加するのなら、 最初に「ITP」 を行います。 まずここでライセンスも付記す ることになり、 特殊なライセンスであったら、 議論になります。
複雑な条件や新規の状況が発生した場合には、 debian-legal メーリングリストで議論します。 メーリングリストでコンセンサス が醸成されたり、 されなかったりします。 フレームウォーが展開されたりします。 結論はなかなか出ませんが、 いろいろな視点 が展開されるので見ているとおもしろいです。
ITP 後パッケージをアップロードすると、 メーリングリストの議論とはあまり関係ない方向で、 ftp-master が debian/copyright を確認し、 パッケージを承認し、 新しいパッケージがディストリビューションに入ります。 この時点で Debian としてこのパッケージをこのライセンスで配布することは DFSG フリーであるという判断をしたことになり ます。
この判断をくつがえすには、 パッケージに対して、 ライセンスが間違っていると serious バグを報告することになり ます。
ftp-master に一旦入ると、 Debian をミラーしている各サーバで再配布されることになります。 また、 CDROM イメージなど でも再配布されることになります。
各国の著作権法では著作物の複製は基本的には許諾がなければ許可されないというルールです。 そのため、 Debian としては ライセンスの条件に同意して複製しているという考え方をとっています。 各ミラーが到底許諾できないような条項は受け入れら れません。
ユーザはダウンロードした Debian の一部を改変します。 ユーザは改変をする際には、 各パッケージの許諾にしたがってい ます。
Debian パッケージを作成する際に、 ライセンス関連を確認します。 著作権は原則として許諾がないと「利用」 が できないという類の権利です。 Debian パッケージの場合、 その情報を debian/copyright ファイルに整理し ます。
では、 ライセンスはどうやって確認するのでしょうか。 原作者はフリーソフトウェアとして一旦公開することを決心したので すから、 良心的にライセンス情報をある程度整理してくれているはずです。 しかしながらその内容は監査の手続きが確立されて いるわけでもなく、 標準が存在するわけでもないので一律ではありません。 また、 よくあることですが、 本 人以外でその点を注意して確認しようとしたのは今 Debian パッケージ作業をしようとしているあなたが初 めてかもしれません。 必要事項が記述されていないこともありうるため、 その場合は原作者に確認をとりま しょう。
ライセンス関連の情報は、 通常はマニュアルやウェブページに記述されています。 そこで大まかな状況を確認しま す 。 例 え ば 、 failmalloc パッケージを例にとってみてみましょう。 failmalloc のソースディレクトリを見てみ ます。
$ ls
AUTHORS ChangeLog Makefile.am NEWS THANKS configure debian failmalloc.c ltmain.sh mkinstalldirs COPYING INSTALL Makefile.in README aclocal.m4 configure.ac depcomp install-sh missing |
まず COPYING ファイルがあるのがわかります。 これは FSF の出しているライセンスに多く、 GPL 全文が入っている場合 が多いです。 この場合は内容を確認してみると、 LGPL v2.1 の全文が入っていました。
GNU LESSER GENERAL PUBLIC LICENSE
Version 2.1, February 1999 Copyright (C) 1991, 1999 Free Software Foundation, Inc. 51 Franklin Street, Fifth Floor, Boston, MA 02110-1301 USA Everyone is permitted to copy and distribute verbatim copies of this license document, but changing it is not allowed. [略] |
他にも、 マニュアルなどにライセンスについて記述されている事が多いです。 確認してみましょう。 今回は README, AUTHORS, ChangeLog, THANKS を確認しても特にライセンス関連の記述はありませんで した。
あと、 最終的にソースコードそれぞれのライセンスを確認しましょう。 別のプロジェクトからコピーしてきたファイルなどが 含まれることもあり、 別のライセンスのものが混じっている可能性もあります。 failmalloc.c を確認すると、 ライセン スについて明言している文面があるのが分かり、 COPYING ファイルと整合性がとれているのが確認でき ます。
/* failmalloc - force to fail in allocating memory sometimes */
/* * Copyright (C) 2006 Yoshinori K. Okuji <okuji@enbug.org> * * This library is free software; you can redistribute it and/or * modify it under the terms of the GNU Lesser General Public * License as published by the Free Software Foundation; either * version 2.1 of the License, or (at your option) any later version. * This library is distributed in the hope that it will be useful, * but WITHOUT ANY WARRANTY; without even the implied warranty of * MERCHANTABILITY or FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE. See the GNU * Lesser General Public License for more details. * You should have received a copy of the GNU Lesser General Public * License along with this library; if not, write to the Free Software * Foundation, Inc., 51 Franklin Street, Fifth Floor, Boston, MA 02110-1301 USA */ |
今回は特にありませんが、 バイナリデータファイルなども確認しておくとよいでしょう。 mp3 ファイルや、 画像データなど、 本当に作者に権利があるのか念のため確認しておくとよいでしょう。 例えば調べた結果音楽データが Creative Commons ライ センスで許諾されているのであれば、 それは別のライセンスのファイルであるとして debian/copyright に記述し ます。
また、 インストールされるバイナリがソースコードから生成されていることを確認します。 *9 ソース コ ー ド か ら 全 部 の バ イ ナ リ が 作 成 で き な い の で あ れ ば 、 原 作 者 に 問 い 合 わ せ る ス テ ップ が 必 要 に な る こ と も あ り ます。
そうやって調査した一連の内容を debian/copyright に整理して記述します。 複数の許諾者や許諾内容がある 場合はそれがわかるように整理しましょう。 この場合は、 LGPL である旨を記録し、 あと Debian パッケー ジ関連のスクリプトについても他の部分と同じライセンスである LGPL2.1 に従うということを明記してい ます。
This package was debianized by Hideki Yamane (Debian-JP) <henrich@debian.or.jp> on
Sat, 26 Jan 2008 09:28:51 +0900. It was downloaded from http://www.nongnu.org/failmalloc/ Upstream Author: Yoshinori K. Okuji <okuji@enbug.org> Copyright: Copyright 2006 Yoshinori K. Okuji License: This package is free software; you can redistribute it and/or modify it under the terms of the GNU Lesser General Public License as published by the Free Software Foundation; either version 2.1 of the License. This package is distributed in the hope that it will be useful, but WITHOUT ANY WARRANTY; without even the implied warranty of MERCHANTABILITY or FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE. See the GNU Lesser General Public License for more details. You should have received a copy of the GNU Lesser General Public License along with this package; if not, write to the Free Software Foundation, Inc., 51 Franklin St, Fifth Floor, Boston, MA 02110-1301 USA On Debian systems, the complete text of the GNU Lesser General Public License can be found in ‘/usr/share/common-licenses/LGPL-2.1’. The Debian packaging is (C) 2008, Hideki Yamane (Debian-JP) <henrich@debian.or.jp> and is licensed under the LGPL-2.1, see ‘/usr/share/common-licenses/LGPL-2.1’. |
なお、 /usr/share/common-licenses に一般的に使われるライセンス 文*10 が 用意されており、 一般的な文面の場合はそれを引用することでよいことになっています。 そうでない場合はライセンス文を全文 debian/copyright ファイルの中に転記します。
メンテナがこうやって準備した debian/copyright ファイルは、 Debian ユーザは /usr/share/doc/パッケージ名/copyright で確認できます。 ____________________________________________________________________________________________
Debian 勉強会資料
2008 年3 月15 日 初版第1 刷発行
東 京 エ リ ア
Debian 勉強会 (編集・印刷・発行)
__________________________