8 Debian Weekly News 翻訳フロー

小林儀匡      
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8.1 はじめに

Debian Weekly News (DWN) という、 Debian コミュニティのために毎週発行されるニュースレターを御 存 知 で し ょう か 。 Debian 通になるためには読むのが必須とされている (?) ニュースで *25 Debian JP debian-users メーリングリスト*26 を購 読 し て い る か た な ら 、 最 近 で は 毎 週 の よ う に 翻 訳 し た も の が 流 れ て く る の で 知 って い る で し ょう 。 こ の DWN 翻訳作業は、 以前は今井伸広さんが一人でされていましたが 2005 6 月ごろから DDTP*27 日本 語 チ ー ム コ ー デ ィネ ー タ の 田 村 一 平 さ ん 、 そ し て 小 林 が チ ー ム を 組 ん で お こ な って い ま す 。 こ こ で は 、 その翻訳作業の流れについて説明します。

8.2 Debian Weekly News とは

DWN Debian コミュニティのための週刊ニュースレターで、 UTC で毎週火曜 18:45ご ろ (JST で毎週水曜 3:45 ごろ) に発行されます。 「週刊」 というだけあって基本的 に 毎 週 発 行 さ れ ま す が 、 発 行 さ れ な い こ と も 年 に 数 回 あ り ま す 。 発 行 形 態 は メ ー リ ン グリストとウェブページの 2 種類あり、 前者は本家の debian-news メーリングリス *28 購読できます (もちろんこのメーリングリストには DWN の他に不定期のニュースも珠に流れてきます) また後者は http://www.debian.org/News/weekly/で参照できます。 様々なメーリングリストでの話 題やイベントについて書かれているので、 読んでおくと Debian 界隈のニュースに (無駄に) 詳しくなれ ます。

DWN の編集は最近ではほとんど Martin ’Joey’ Schulze 一人の作業に委ねられています。 しか しフッタに書かれる編集者情報を見る限り、 2 号に 1 号くらいは他の人が助けているよう です。

ちなみに創刊号は 1999 1 4 日に出され、 その編集者は Joey Hess でした。 記念すべき第 1 号の editorial によれば、 Linux Weekly News*29 真似て作られたようです。 また editorial の次に書かれた記事第 1 号のタイトルは ‘RMS is using Debian.’ です。

8.3 ファイル形式 – WML

ウェブページ版の DWN Debian のサイトの一部なので、 他のページと同じ CVS リポジト *30 そして同じ WML というファイル形式を利用しています。

ファイル形式には他のページと同様に WML が用いられています。 WML とはウェブサイトメタ言語 (web site meta language) のことで、 Debian ではwmlパッケージとして提供されています。 簡単に言っ てしまえば HTML に命令を混ぜたような言語で、 例えばウェブページのコンテンツに定型的なヘッダ・ フッタ、 さらに HTML head を加えたりするのに用いられています。 また、 条件分岐を用いた、 「○○ のリリース前にはこのコンテンツを表示し、 リリース後にはこのコンテンツを表示する」 というような表示の切り替えや、 Debian のウェブページの翻訳版がオリジナル版のどの バージョンに基いているかを管理するのにも用いられています。 WML についてより詳しく 知りたければ http://www.debian.org/devel/website/using_wml を参照してくださ *31

8.3.1 DWN WML

Debian Weekly News の場合だと WML の形式は決まっています。 以下では (わざわざ説明する必要もな い 、 見 れ ば 分 か る も の だ と 思 い ま す が ) DWN 2005 年第 44 号のものを例にとって説明し ます。

まず最初に命令が決ます。 ここには、 発行日時・そしてアーカイブのページに表示されるサマリ (主だった記事のキーワードのリスト) が書かれます。 その後に CVS Id が書かれてい ます。

#use wml::debian::weeklynews::header PUBDATE="2005-11-01" SUMMARY="Dependencies, OpenSSL, Berlinux, RFCs, Kernel, Packaging, GTK, GNOME"  
# $Id$

その後で、 ‘Welcome to this year’s nthissue of DWN, the weekly newsletter for the Debian community.’ で始まる editorial が来ます。

<p>Welcome to this year’s 44th issue of DWN, the weekly newsletter for the  
Debian community.  Nathanael Nerode <a  
href="http://lists.debian.org/debian-devel/2005/10/msg00388.html">reported</a>  
that current GCC versions support the old i386 processor again and hence  
Debian could retain i386 compatibility in the upcoming <a  
href="$(HOME)/releases/etch/">etch release</a>.</p>

あとは普通の記事の繰り返しです。

<p><strong>Calculating Development Package Dependencies.</strong> Jay  
Berkenbilt <a  
href="http://lists.debian.org/debian-devel/2005/10/msg00184.html">\  
proposed</a> to work on a <a  
href="http://packages.debian.org/debhelper">debhelper</a> script that helps  
calculating <a href="http://packages.debian.org/libtool">libtool</a>  
dependencies for development packages.  Goswin von Brederlow <a  
href="http://lists.debian.org/debian-devel/2005/10/msg00519.html">pointed  
out</a> that with <a href="http://raw.no/debian/amd64-multiarch-2">\  
multiarch</a> there may be concurrent <code>.la</code> files to handle.  No  
consensus in favour of such a script was reached.  
Junichi Uekawa (&#19978;&#24029; &#32020;&#19968;)  
<a  
href="http://lists.debian.org/debian-devel/2005/10/msg00316.html">\  
mentioned</a> the <a href="http://packages.debian.org/d-shlibs">d-shlibs</a>  
package that contains scripts to support the maintainer in this regard.</p>

以上が DWN の記事部分です。

記事部分のあとには、 箇条書で書けるような様々な情報のコーナーが続きます。 主に前号の発行以降に 変化があったパッケージについての情報で、 最近載っているのは

‘Security Updates.’ ( 「セキュリティ上の更新。 」 )
DSA 番号・パッケージ名・脆弱性についての 記述) のリスト。
‘New or Noteworthy Packages.’ ( 「新規または注目すべきパッケージ。 」 )
パッケージ名・パッケー ジ説明文のリスト。
‘Orphaned Packages.’ ( 「みなしご化されたパッケージ。 」 )
パッケージ名・パッケージ説明文・ debbugs のバグ番号のリスト。
‘Removed Packages.’ ( 「削除されたパッケージ。 」 )
パッケージ名・パッケージ説明文・パッケー ジ削除理由のリスト。

4 コーナーですが、 このうち「削除されたパッケージ。 」 は比較的新しい項目です。 去年は、 Debian Package a Day’s Journal*32 紹介されたパッケージのリストを含む ‘Debian Packages introduced last Week. Ever’ ( 「先週紹介された Debian パッケージ。 」 ) というコーナーがあったのですが、 これは、 ウェブページが更新されなく なった (さすがにネタが尽きた?) ために廃止されたようです。 以下にコーナーの例を示し ます。

<p><strong>Security Updates.</strong> You know the drill.  Please make sure  
that you update your systems if you have any of these packages installed.</p>  
 
<ul>  
<li>DSA 872: <a href="$(HOME)/security/2005/dsa-872">koffice</a> --  
    Arbitrary code execution.  
<li>DSA 873: <a href="$(HOME)/security/2005/dsa-873">net-snmp</a> --  
    Denial of service.  
<li>DSA 874: <a href="$(HOME)/security/2005/dsa-874">lynx</a> --  
    Arbitrary code execution.  
<li>DSA 875: <a href="$(HOME)/security/2005/dsa-875">openssl094</a> --  
    Cryptographic weakness.  
<li>DSA 876: <a href="$(HOME)/security/2005/dsa-876">lynx-ssl</a> --  
    Arbitrary code execution.  
<li>DSA 877: <a href="$(HOME)/security/2005/dsa-877">gnump3d</a> --  
    Several vulnerabilities.  
<li>DSA 878: <a href="$(HOME)/security/2005/dsa-878">netpbm-free</a> --  
    Arbitrary code execution.  
</ul>

最後に定型メッセージが入ります。

<p><strong>Want to continue reading DWN?</strong> Please help us create this  
newsletter.  We still need more volunteer writers who watch the Debian  
community and report about what is going on.  Please see the <a  
href="$(HOME)/News/weekly/contributing">contributing page</a> to find out how  
to help.  We’re looking forward to receiving your mail at <a  
href="mailto:dwn@debian.org">dwn@debian.org</a>.</p>

そしてフッタ用の WML 命令が入ります。 編集者の名前を書くのに使われます。

#use wml::debian::weeklynews::footer editor="Martin ’Joey’ Schulze"

8.4 翻訳作業

翻訳作業はだいたい以下のような流れになっています。

週末
Martin ‘Joey’ Schulze がプライベートな草稿*33 記事を追加する。
水曜未明
オリジナル版がリリースされる。
水曜
今井さんが翻訳チームの田村さん・小林に作業を割り振る。
水曜〜日曜
翻訳チームメンバーの 3 人が個々に翻訳し、 Debian JP debian-www メーリングリ スト*34 それを投稿して査読をお願いする。 それに対して杉山さん・武井さんなどが査読をしてくだ さる。
月曜〜火曜
(基本的に今井さんが) debian-users に日本語版をリリースする。
8.4.1 Martin ‘Joey’ Schulze のオリジナル版リリース作業

Martin ‘Joey’ Schulze は、 オリジナル版をリリースするために独自のリポジト *35 用いています。 彼はそれに記事を追加していき、 UTC で月曜日の夕方に、 「ごく親しい関係者」 向けに DWN のプレビューをリリースします。 彼はこのプレビューをdwn@debian.orgに送り、 DWN チームのレビューを受けます。 またプレビューは、 早目に翻訳にとりかかりたい人のために dwn-trans@debian.orgにも送られます。 こうして、 いくつかの言語ではオリジナル版の正式なリリース と同時に翻訳版をリリースすることができるようになっています。 日本語版は現在、 正式リリースを待っ て作業を開始しています。

8.4.2 割り振り

翻訳チームメンバー 3 人への作業の割り振りは基本的に今井さんが行います。 チーム制を始めた ば か り の こ ろ は 「記 事 部 分 前 半 」 ・「記 事 部 分 後 半 」 ・「そ れ 以 外 (様々なコーナー)」 という 分け方をしていました。 しかし、 記事というのは流れがあるので訳していてそれなりに楽 しいのですが、 「それ以外 (様々なコーナー)」 は、 脆弱性・パッケージ削除理由といった 定型文句が多数を占めるものがある一方で、 流れがなくて訳しづらいパッケージ説明文も あります。 (どちらにしろローテーション制なのですが) それだとやりがいに差が出るため *36 最近では「記事部分の 1/3 とどれかのコーナー」 という分け方になっているようです。

8.4.3 翻訳・査読依頼

翻訳作業は、 CVS リポジトリからオリジナル版の DWN wml ファイルをコピーして始めます。 このと きファイルのコピーには、 同じリポジトリに入っているwebwml/copypage.plを用います。 というのも、 この Perl スクリプトはコピー元のオリジナル版 wml ファイルに含まれる CVS Id キーワードの値から 翻訳バージョンチェック用の WML 命令を作り出してくれるからです。 またこのスクリプ トは、 オリジナル版 wml ファイルに含まれている Latin-1 文字コードの文字を適切な文 字実体参照に置き換え、 ASCII だけを含むファイルにしてくれます。 ウェブインタフェー スを使ったダウンロードや、 cpコマンドによる生のコピーでは、 それらがおこなわれま せん。

実際の翻訳作業では、 査読のしやすさを考えて、 オリジナルの記事・リスト項目を残し、 その後ろに翻 訳をつけていきます。 「この文の意味がよく分からない」 「この単語はこう解釈した」 といったメモを査読 者に残したい場合は、 「#」 でコメントアウトしたものをオリジナルと翻訳の間に挟んで残し ます。

8.4.4 日本語版リリース作業

リリース作業は次のような手順でおこないます。

  1. Debian JP debian-www メーリングリストに送られた 3 人の翻訳を wml ファイルにマージ する。
  2. 査読をしてくださった方々のコメントを反映させる修正をおこなう。
  3. w3m で表示させ、 査読でも指摘されずに残った明らかなミスがないか、 自分の目で簡単に チェックする。
  4. w3m の表示を見ながら、 全角文字同士や全角文字と ASCII の間に不必要な空白ができてい ないか、 または ASCII の周りに空白がきちんとあるかを調べ、 必要に応じて改行位置やタ グの位置を変える。 詳しくは 8.5を参照のこと。
  5. 最下行にあるフッタ用 WML 命令に、 editorフィールドとは別にtranslatorフィールド をつけることができるので、 そこに翻訳者の名前を連ねる。
  6. 査 読 し や す い よ う に 残 し て あ った オ リ ジ ナ ル の 記 事 ・リ ス ト 項 目 と 翻 訳 時 の メ モ を 消 す ( れでウェブ用翻訳版 wml ファイルは完成となる)
  7. 今井さんの Ruby スクリプトで、 wml ファイルを Debian JP debian-users メーリングリス ト投稿用プレインテキストに変換する。
  8. &ouml;などの文字実体参照を w3m などの出力に合わせて変換する。
  9. Emacs auto-fill-modeを利用して適当なところで改行する。 ただし、 リンクの代わり となる URL リスト内の項目番号を示す「[1]」 のような文字列の前で改行されてしまった 場合は、 それを手動で前の行末に戻す。
  10. 以前の debian-users への投稿を元に体裁を整える。
  11. コメントを加える。 大変な査読作業をしてくださった方々への謝辞を忘れないようにする。
  12. 完成した投稿用プレインテキストを debian-users に送信する。
  13. 最後にウェブ用翻訳版 wml ファイルを debian-www に送信し、 コミットをお願いする ( ちろん、 コミット権のある今井さんが作業者の場合は直接コミットとなる)

8.5 翻訳作業時の注意点

翻訳作業時には以下のような点に注意を払います。

8.6 今後の課題

今後の課題としては以下のようなものがあるでしょう。 中には DWN の翻訳に留まらず他の翻訳にも関係 す る も の も あ り ま す 。

定型文句の翻訳の自動化
定型文句を翻訳するときには、 訳語や表現形式を合わせるために、 そ の文句が使われている過去の翻訳を探して copy and paste するという作業が必要になりま す。 この作業は、 オリジナル版と翻訳版を行き来して該当部分を探し出さなければならない ので、 案外面倒なものです。 対訳をデータベース化し、 そのデータを用いて翻訳できる部分 は作業前に予め機械的に翻訳できるようにしておくと、 もう少し効率よく作業を進められる 気がします。
対訳表の保守
Debian JP に対訳表*38 があるのですが、 現在は更新されていません。 APT 関連、 Debian プロジェクト関連、 あるい はその他の Debian でよく使われる用語の対訳表*39 整備できたらと思います。 新規に翻訳作業に携わりたい人にとって、 対訳が簡単に調べられ ることはかなり重要でしょう。

8.7 おまけ: 翻訳作業に有用なツール

小林が翻訳作業によく用いているのは、 英辞 *40 NDTPD*41 Lookup*42 の組み合わせです。 英辞 郎のデータを FreePWING*43 変換して得られたデータに、 Emacs 上のクライアント Lookup からサーバ NDTPD を経由してアクセス します。

また、 文書の変更を管理するのに、 バージョン管理システムとして Subversion*44 利用しています。 差分を unified diff で表示しても分かりにくいときは、 DocDiff*45 表示させると分かりやすくなることがあります。

東 京 エ リ ア Debian 勉強会 2005 _________________________________________________________

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